2020/07/10 21:00
■パーティのはじまり 「もともとはmyspaceに大量にビートをアップしていた俺とFree Babyronia、C.O.S.A.の3人が、2010年にビートメイカーのチームを作ろうということになり、俺とFree Babyroniaとrisa ogawaが話すなかで、出てきた名前が<MADE DAY MAIDER>だったんです。当時、ヒップホップのビートメイカーに家やスタジオだけじゃなく、クラブでも音楽が表現出来る場をもたらしたLAのパーティ<Low End Theory>に刺激されて、俺たちもビートメイカーを主軸に、ラッパーやDJもいるイベントをやろう、と」(Ramza) 「当時、LAシーンの影響を受けたビートメイカーは日本にも結構いたと思うんですけど、現地のノリとは違って、日本においてはナードな方向性に偏ってしまっているように感じたんです。どうしてそうなったかというと、ラッパーだったり、ストリートの人間が関わってないからだなって。だから、俺が<MdM>の主催者になって、club JB'Sとのやり取りをするようになり、初回はビートメイカーがRamza、Free Babyronia、C.O.S.A.、ラッパーがTOSHI蝮、DJがTETSUさんという面子。平日木曜日のイベントで、お客さんも全然いなかったよね?」(Campanella) 「そうそう。集客は10人、20人くらいだったかな。でも、大入りのイベントを終えたような気持ちで、朝方、バーのカウンターに座って、“最高だよね。このイベント続けていこうよ”って話したのを今でも覚えてますね」(Ramza) 「この10年を振り返ると、奇数月の木曜日開催ということもあって、最初の5年くらいはダンスの要素、遊ぶという感覚が薄かったというか、平日にかましてやろうという意識が強くて、実験性が高い内容だったと思いますね」(Campanella) 「(JET CITY PEOPLE所属のラッパー)ROO-TIGERのビートを作ってて、My Bloody Valentineの『LOVELESS』しか聴かないっていう謎のビートメイカー、KILL手順BEATがひたすら轟音のアンビエントを流したり、ミニマルダブテクノをやってるTetsumasaを呼んだり、この10年はその時々で変わる僕らの嗜好に応じて、色んなゲストに出てもらいました。平日遊びに来る客って、ホントの音楽好きというか、濃さが半端なくて。そういう人たちをブチ上げる美学が俺たちにはあったというか、今となってはそういう考え方は稀なのかもしれないですけど、クラブミュージックの在り方としてはクラシックなスタンスなんじゃないかなって」(Ramza) ■パーティの個性と発展 「その後、ゴールデンウィークの木曜日にスペシャルな内容でやらせてもらえるようになったり、出演者みんながDJをやる<裏MdM>を偶数月の木曜日新たに始めたり、そういう流れのなかで遊びの要素が徐々に色濃くなっていったんです」(Campanella) 「客が一気に増えたのは、Campanellaが『VIVID』(2013年)と『PEASTA』(2016年)、C.O.S.A.が『Girl Queen』(2017年)を出したタイミングですね」(Ramza) 「C.O.S.A.『Girl Queen』のリリースパーティを兼ねた2017年8月の回は集客が200人くらいだったかな。誰かのライブの後、ステージと反対側のDJブースでRamzaとFree Babyroniaが一緒にライブをやってて、ずっと轟音を流していたんですけど、一気に増えたライトなお客さんはステージの方を向いてて、2人のライブにほとんど気づいてなかったっていう(笑)。 今はみんなそれぞれ忙しくなり、イベントとしては不定期開催になっているんですけど、作品リリースを通じて、ラッパーも人を集められるようになり、人が集まれば、みんなにビートメイカーのライブやDJを通じて、いい音楽を楽しんでもらえる」(Campanella) 「これまで周年イベントを一切やってこなかったラフさと客が入らなくても全く気にせず、ヤバい音楽を流すことだけを考え続けてきた楽観性こそが<MdM>だと思うし、一貫して意識してきたのは“古くないこと”ですね。10年間ずっと同じ人が出続けているイベントではなく、変化し続けている俺らの嗜好がその都度反映された内容であるからこそ、10年間続けられたんだと思います。客もそういうイベントであることをよく分かってくれていて、例えば、ゲストにBushmindやOoshima ShigeruさんがDJで出ても、テクノ、ハウスでいつも通り遊んでくれてますからね」(Ramza) 「そういう意味で、立ち上げ当初にイメージしていた場の在り方が10年かけてようやく機能するようになったと思います」(Campanella) ■音楽だけにとどまらない表現の場としてのMdM 「僕は音楽家ではないので、MdMに誘われて、自分から生み出せたのが、たまたま、フライヤーやZINE、Tシャツだっただけで、それがMdMにおける自分なりの表現になったと思います。 これまでTシャツをはじめとするMdMのアイテムは、直接手渡すことに重きをおいてて、色んな人から欲しいと言ってもらえるのはとてもありがたかったんですけど、自分の手の届く範囲で1度に数枚単位しか作れなかったので、あまり知らない場所にまで渡るのは少し抵抗もありました。Tシャツは、どんな音楽聴いてる人がこれ着て、どんな生活送るんだろうとか考えながら刷っていて、僕自身、そうやって作り手の思いやイメージが込められたモノに直接触れる事はものすごく楽しい出来事だと思っています。僕はただ自分のペースでTシャツを作ってるだけなので、MdMのみんなもどんどんTシャツとか作ったらいいのにって思うんですけどね」(MUSUKOKUN) ■MdM10周年プロジェクトについて 「当初は<MADE DAY MAIDER 10YEARS ANNIVERSARY>と銘打って、5月2日にKID FRESINOと空間現代をゲストにパーティをやることになっていたんですけど、COVID-19の影響で中止になってしまったので、MUSUKOKUNと話しているうちに何か作ろう、と。それがどんどん膨らんでいき、Ramzaを交えた3人で音源付きのTシャツを出すという形になりました」(Campanella) ■MUSUKOKUNが<MY DEAR MOMENT>に込めたもの 「今回のテーマである<MY DEAR MOMENT>という言葉は個人的にものすごく大切にとっておいた言葉です。自分のなかで“MOMENT”という言葉に親しみを覚えていたのは、10代の頃に京都のハードコアバンド、naiadに出会ったことがきっかけですね。彼らの作品に「IN THIS MOMENT」って曲があるんです。その後、(naiadのSEIYAによるプロジェクト)daydreamnationが収録されたコンピレーション・アルバムを手に取ったら、それがSEMINISHUKEIの『culture expands the world』でした。あのアルバムと出会ったことで音楽の聴き方が大分変わったと思いますし、自分のなかでnaiadとSEMINISHUKEI、MdMはリンクしていると勝手に思うようになり、“MOMENT”という言葉の重みが増していったと思います。 今回のTシャツを制作するにあたって、10周年を迎えた<MADE DAY MAIDER>の名のもとに、2020年現在のMdMを形作る仲間やクルーを“MY DEAR”として、それぞれのロゴをグラフィックのエレメントとして“MOMENT”に含ませて並べようと思いました。これまでお世話になった仲間やクルーのロゴを、ホントはもっと載せたかったんですけど、とても載せきれないので泣く泣く割愛させていただきました」(MUSUKOKUN) ■衝動が空気に触れる瞬間の記録 「今回の音源は、当初の予定では、俺が曲を書いて、Ramzaもビートを作って、それをセットにした気楽なものになることをイメージしていたんですけど、Ramzaがビートメイクやリミックスと、どんどんやり始めたので、それをまとめたDJミックスにしようかという話になりかけたんです。でも、1曲1曲の個性が際立っていたし、予想外にボリュームが膨らんだこともあって、曲単位で独立させた形でまとめようということになりました。ライブを観たことがある人なら分かると思うんですけど、個人的にはこの作品で瞬発的に生まれるRamzaの発想が空気に触れる瞬間をみんなにも味わってもらいたいです」(Campanella) 「この3人でTシャツとのセットで音源を出すことを決めた時、今の気持ち、緊急事態宣言下の面持ちが劣化しないようにスピード感が欲しいねっていう話になったんですよ。だから、俺も奮起して、リミックスは、Campanellaから過去曲のアカペラを送ってもらって、それに対して新しいビートを作ったり、ストックしていたビートをエディットして当てはめたりしましたし、新曲の「Rick and Morty」も、俺が作ったビートでCampanellaにラップしてもらって、そのアカペラに全く別のビートに差し替えたりして、全ての作業を4月末からゴールデンウィークが終わる頃までの2、3週間で終えました」(Ramza) ■今回の作品におけるRamzaのビートと現在のモード 「(Ramzaが手がけたCampanellの2016年作)『PEASTA』の低音は自宅のスピーカーではそこまで鳴らない作りになっていて、サブウーファーがあるクラブのシステムで鳴らすと強烈な低音が現れるベースミュージック的な音響のアルバムだったんですけど、あれから4年経って、自分のなかで音響のモードが変わったんですよね。ベースというのはゲットーなところにあるものだし、自己顕示欲の表れだと思っていて、繊細なトラックに極太な低音が入っている『PEASTA』って建築的な構造がありながらもゲットーなルーツを感じさせるスーパーハイブリッドなイカレた作品。自分たちにとって特別なアルバムだったんですけど、低音への理解も内面的な構造もそこから前に進みたかった。だから、エクスペリメンタルなベクトルを極めるんじゃなく、現代のヤバいサウンドテクスチャー、例えば、トラップだったり、現在のフォーマットを借りた自分たちらしい音像を作品に持ち込んだ、というか、緊急事態宣言下でたまたま自分のモードがそういう感じだったんですよ。だから、これまで多用してきたサンプリングも今回はほとんど使っていなくて、その代わりに自分で作った音を用いてトラックを完成させましたね」(Ramza) ■今回の作品でCampanellaが提案するラップ、リリックの新たな試み 「今回の作品における完全な新曲「Rick and Morty」は、Ramzaのビートメイクがそうだったように、俺のラップも瞬発力そのものですね。そして、3曲目の「MDMER」のオリジナルはまた別にあるんですけど、この曲はそのMdMダブプレート・ヴァージョン。「Nine Stories」と「Yours My View」は既存曲の自分のヴァースを引用をして、そのヴァースに対して、自分でアンサーをしていて、個人的には新曲に近い曲だと考えています。「Stay Mellow」もワン・ヴァースの新曲ではあるんですけど、そこにKID FRESINO「Attention」の自分のヴァースをハメて、ライブでやっているので、それをそのまま形にしてみました。 例えば、今のトラップにしても1曲16小節も書いてないというか、同じことを繰り返し言ってる曲が多いと思うんですけど、ラップって、何回も同じことを言ったり、昔書いたリリックをまた新しい曲に持ってきたりしてもいい音楽だと思うんですよ。だから、リミックスといってもトラックだけでなく、ラップも捉え直したり、アップデートする作業をしてみました」(Campanella) 「アメリカでは、例えば、ラッパーやR&Bシンガーのリミックス曲に新たなラッパーやシンガーをフィーチャーして、いわゆるリミックスの枠組みを越えた、遊び心のあるリミックスが当たり前にリリースされていますし、そうやって音楽で自由に遊ぶラッパーに憧れて、俺らは音楽を始めましたからね。だから、俺らが今回やっているようなことは特別変わったことではないというか、日本のラッパー、ビートメイカーももっと自由にやったらいいのにって思いますね」(Ramza) ■『NOODLE』という作品タイトルに込めたもの 「この作品を作っていた時、俺は小麦から麺を打って、ウイグル自治区のラグマンという麺料理を作る機会があったんです。それで作品タイトルどうしよう?という話になり、『NOODLE』がいいだろう、と。ラグマンがそうであるように、MdMも末永く続くようにという願掛けの意味もそこには込められていますね」(Ramza) -text by Yu Onoda